「妊娠は病気ではない。」
いろんな本や雑誌でそのように記載されていますし、実際に日本では健康保険の適用外です。(各自治体独自の補助制度はあります。)
しかし妊娠自体が病気でないにしても、妊娠によって体調不良が生じることまた重大な病気になるリスクがあることは紛れもない事実です。
そしてそれらは風邪等の一般的な病気とは異なり、予防できないこと、妊娠している本人にはどうしようもないことが多々あります。
私は妻の妊娠・出産を通してこの不安やリスクに対する理解がまだまだ男性の間では共有されていないと感じています。
このブログでは「男性が主体的にかかわる妊娠・出産」を目指していますが、最初の第一歩はあなたのパートナーとそのおなかの中にいる赤ちゃんがこれからどんなリスク抱えるのかを知るところから始めていただければと考えています。
今回の記事では妊産婦検診の初診について説明した記事でふれた妊娠初期にあるリスクについて共有したいと思います。
まだ初診の記事をご覧になっていない方は是非お読みください!!
みんな知るべき、妊娠には高いリスクがある!
早速ですが、皆さんに問題です。
こちらの15%という数字は日本産婦人科学会が公表している産婦人科診療ガイドラインから引用しています。
http://www.jsog.or.jp/activity/pdf/gl_sanka_2020.pdf
臨床的に確認された妊娠の 15%が流産となり,妊娠女性の 38%が流産を経験している。
産婦人科診療ガイドライン ー産科編2020
これはつまり妊娠の6回に1回は流産・死産となり、妊娠を経験した女性の3人に1人は流産を経験するということです。
日本ではありませんが、アメリカの研究では1999年ー2002年に妊娠した約15万人のうち約30%が流産・死産したという論文もあります。
正直これを知るまでは、流産の可能性について一切気にしていませんでしたが、急にいつ自分たちが当事者になるかもしれないと思うようになりました。
ちなみに厚生労働省が毎年発表している「人口動態統計」では「死産率」という統計データが利用されています。これは2019年が2.2%、2018年が2.0%と先ほど皆さんにお示しした15%以上という数字と大きくかけ離れていますが、これは「死産率」が「妊娠満12週以後に死亡した胎児」が対象となっていて、妊娠12週以前の流産(「早期流産」と言います。)は含まれていないためです。
逆に言うと流産・死産のうちのほとんど(80%以上)が妊娠初期に発生していることがわかります。
もう気軽に「妊娠は病気じゃない」だなんて、口が裂けても言えないのではないでしょうか。
流産のほかにも妊娠出産に伴う、体調不良や病気のリスクはたくさんあります。
それらをきっちりと理解し、パートナーを支えることが私たち男性の役割のひとつだと私は思います。
早期流産について理解しよう
それではまず早期流産についてご説明します。
早期流産ってなに?確率と原因は?
なぜ12週が基準になっているかというとそれ以前と以後で流産の確率が大きく変わるからです。
早期流産の確率の推移
こちらはアメリカの論文のデータをもとに作成したグラフです。
見ていただくとわかる通り、流産・死産する可能性は妊娠初期が高く、徐々に下がってきて12週頃で5%以下になり、そのあとは低い確率で横ばいになります。
早期流産の原因
早期流産の原因のほとんどは赤ちゃん側の異常で、その中で一番多いのが染色体異常です。
染色体異常はあなたの精子とあなたのパートナーの卵子が受精した時点で発生しているものであり、予防する方法はありません。
残酷ではありますが、流産率が20%近くあるように、はじめから育たない運命の受精卵が5個のうち1個あるということです。
年齢別にはどう変わる?
早期流産の確率は妊娠しているパートナーの年齢で大きく変化します。
年齢別の流産確率の推移を見てみましょう。
ご覧の通り妊娠の年齢が高くなるほど早期流産する確率が高くなり、40歳を超えるとその確率は50%を超えています。これは原因は変わらず受精卵の染色体異常で、年齢が高くなるほど受精卵に染色体異常が発生する確率が高くなることがわかっています。
一方で若ければ低いかというわけでもなく、33歳以下であっても全体の20%近くは流産を経験という結果になっています。
近年、妊娠出産の高年齢化によるリスクの増大が問題視されていますが、それは決して若ければリスクがないということではありません。
早期流産は誰もが直面しうるリスクであるということは忘れないでください。
12週以降も油断は禁物。
妊娠12週以降は流産確率が下がり、世の中的には「安定期」と呼ばれる期間になります。
しかし忘れないでいただきたいのは、リスクがゼロになったわけではないということです。
- 流産・死産の可能性は生まれるまで引き続きあり。(全体の2%程度)
- 妊娠中は感染症、早産、妊娠特有の病気等、胎児に影響を与えるリスクはたくさん。
- 出産も逆子、胎盤トラブル等生まれてくるまで何があるかわかりません。
- その他マイナートラブルも
人気漫画&ドラマ「コウノドリ」のモデルとなった荻田医師も自身の本で次のように書いています。
「安定期」とよく耳にしますが、産科医としてはあえて「安定期はありません」というスタンスを取っています。 (中略) いつ何が起こるか誰にもわからない、それが妊娠であり、お産なのです。
ダンナのための妊娠出産読本 荻田和秀
妊娠出産はいつでもリスクと隣り合わせです。他のリスクについても随時ブログで解説していきますので、是非一緒に勉強して、理解を深めてください。
本当に危険な異常妊娠とは?あなたのパートナーが危ない!
次は流産ほど発生頻度は高くないものの、なった場合に非常に怖い異常妊娠について説明していきます。
異常妊娠には「異所性妊娠」と「絨毛性疾患 胞状奇胎」の2つがあります。
それぞれ見ていきましょう。
異所性妊娠
受精卵は赤ちゃんが十分に大きくなるスペースがある子宮にたどり着いて通常成長しますが、全妊娠の1~2%程度は子宮以外の場所に受精卵が着床してしまうことがあります。これが異所性妊娠です。
着床した場所によってそれぞれ名前がありますが、その9割は卵巣と子宮をつなぐ卵管に着床してしまう「卵管妊娠」です。
異所性妊娠では妊娠が継続して、胎嚢がどんどん大きくなることがあります。
その場合、子宮と異なり卵管のような場所は細く狭い空間のため、胎嚢が大きくなるとその部位が破裂し大量出血する可能性があります。その場合妊娠している本人は命の危険も伴います。
そして一番恐ろしいのは症状が通常の妊娠とほとんど変わらず、検査等でしか発見できないことです。
早期発見のためには、妊娠が疑われる際に適切な時期に妊娠検査薬で検査し、陽性の場合は産婦人科を受診することが重要です。
- 発生の割合は全妊娠の1~2%(100人に1~2人)
- 9割以上が子宮までたどり着かずに途中の卵管に着床したもの(卵管妊娠)
- 卵管妊娠の場合は発見が遅れると大量出血、最悪の場合、死の危険がある
- 早期発見、できるだけ早い治療のために初診を適切な時期に受診することが最重要!
絨毛性疾患 胞状奇胎
妊娠中赤ちゃんとお母さんををつなぎ、赤ちゃんの成長に必要な酸素や栄養をやり取りするのが胎盤です。
胎盤は妊娠した際にはもちろんなく、初めは絨毛(じゅうもう)が作られ、徐々にそれが胎盤としての機能するようになります。
この胎盤のもととなる絨毛に異常が発生してしまうのが絨毛性疾患です。
胞状奇胎は1000回に1~2回発生するとされており、胞状奇胎と診断された場合、子宮の中のものを除去する手術を行います。
この病気の怖いところは除去手術を行った後も、一定の割合で進行し、最悪の場合絨毛がんに移行する可能性があります。そのため、手術後も通院し病気が進行していないかしっかりとモニタリングすることが重要です。
- 発生割合は全妊娠の0.1~0.2%(1000人に1~2人)
- 診断を受けた場合には、子宮内容除去手術が必要。
- 胞状奇胎は一定の割合で他の病気の侵入奇胎や悪性の絨毛がんに進展する可能性あり。
- 信頼できる病院で手術とその後の通院・検査を実施することで病気の進展をモニタリングし、次の妊娠に備えることができます。
妊娠はあなたも当事者。大切なパートナーのために行動しよう。
これまで妊娠初期に発生するリスクについて話してきました。
赤ちゃんそして母体であるあなたのパートナーが危険な状態になる可能性は決して低くありません。むしろ思っていたよりも高いと感じる人が多いのではないでしょうか。
しかも妊娠に関するリスクについては避けられないものがほとんどです。
皆さんはこのことを知ってどのように思いましたか??
とにかく正しい知識を2人で身につけよう。
妊娠を望む場合にはこれらのリスクがあることを正しく理解した上で、妊活をする必要があると思います。
特に強く「子供が欲しい」と思っているカップルにとってはこれらのリスクはかなり残酷です。
私たち夫婦は早い段階でこのリスクについて知ることができたので、何回も「流産は5回に1回はあるもの」「仮になっても誰のせいでもない」ということを繰り返し二人で確認しました。そして検診は2人で行くと決めました。(結果的に詰めが甘く私は同席できませんでしたが。。。詳しくは初診の記事で。)
もちろんこれで完全に2人の不安がなくなったわけではないですが、最低限の心の準備は出来ていたと思います。
周りからのプレッシャーも2人で切り抜ける!!!
またこの時期は自分たちの親世代の人からは、
「妊娠初期は安静にしてなきゃだめよ。」とか
「お母さんは流産しないように気を付けてね。」とか
不安をあおるようなことを結構な頻度で言われます。
ひとりの場合はそういわれると結構不安になるものですが、2人で正しい理解を共有していれば、ストレスや不安を過剰に感じないことが可能です。
自分の親や身の回りの人の認識をアップデートすることもあなたの役割です。
「この時期の流産は母体にほとんど原因はなくて、安静にしていれば避けられるというものではないんですよ」と伝えましょう。
まとめ
いかがだったでしょうか。
妊娠初期はたくさんのリスクがあり、不安も大きい時期です。
あなたのパートナーが一人で悩まないように、あなたも正しくリスクを理解し、2人でこの不安の時期を切り抜けてください。